むし歯?むし歯ではない?

こんにちは、仲町歯科医院、副院長の義永昌也です。

「むし歯は無いと言われたのに、別の所ではむし歯と言われた。見逃してしまっていたのでは」
「歯が黒くなっている所があるのに、治療は必要ないと言われた」等のご質問がありました。
なぜこういった事が起こるのでしょうか。当院でのむし歯への考え方も含め、理由を挙げていきます。
(文章が長いため、まとめだけでも読んでいただけると幸いです)

 

1.削るむし歯と削らないむし歯~判断基準~

視覚的に分かりやすいむし歯の分類の1つにICDASというものがあります
(リンクはこちら→https://healthcare.gr.jp/newhp/wp-content/uploads/icdas-sample.png)

(一般社団法人 日本ヘルスケア歯科学会提供資料)

表面性状を肉眼的に観察し、7段階で分類します。健全はコード0(一番上)で、むし歯が進行するにつれコード6(一番下)と進みます。

コード2のような小さなむし歯でも積極的に削る治療をする!といった歯科医師もいれば、コード5でもなるべく歯は削らない!といった歯科医師もいます。正解はなく、歯科医院の方針やDrの判断、患者さんの価値観でも方針が変わります。(抜歯するかしないか、治療するかしないか も同様です。明確な基準があるわけでないため、「前と違うことを言われた」といった誤解を生む一因になっていると考えられます。)

ただし、ある程度は「削るむし歯」の条件について学会から提示されています。
リンクはこちら→(日本歯科保存学会:う蝕治療ガイドライン 第2版 2015年公開)

・穴が開いている
・症状(ものが詰まる、しみる)がある
・見た目が気になる
・レントゲンで確認し、深く(象牙質近くまで)進行している
・むし歯が進行しやすい

逆に言うと、「症状がなく、レントゲン上で深くないむし歯は、削る必要性は小さい」と言い換えることができます。

2.治療で「治る」ことはない


昔に比べてセラミックやレジンなどの材料は進化していますが、むし歯治療では自然な歯とは異なる材料を使用し、補修(ツギハギ)することになります。このプロセスで、自分の歯と人工物の間に微細な隙間(マージン)が生じます。
「セラミックはむし歯にならないと聞いた」と言われるかもしれませんが、この隙間の存在によりどれだけ精密な治療を施しても、隙間から新たなむし歯(二次カリエスとも呼ばれます)が発生する可能性があります。天然の歯にはこのような隙間が存在しないため、治療済みの歯は天然の歯と比べてむし歯のリスクが高くなります。
今まで無かった症状(しみる・咬むと違和感がある)などが出現することもあります。治療によって健全な状態に戻ることは決してありません。

3.小さなむし歯は削らない方が良い場合も


以前は、初期のむし歯を見つけたら、それ以上広がらないようにと早めに削ってしまうのが主流でした。しかし現在では、ごく初期の小さなむし歯であれば様子を見るのが一般的です。
理由として、

  • 小さなむし歯は進行を停止、あるいは遅らせる事が出来る
  • 様子を見ることによって、進行しているむし歯なのか判断ができる(待機的診断といいます)
  • 一度削った歯は元に戻せない「不可逆的な侵襲」である

といった理由が挙げられます。一度治療をすると、将来再治療…と繰り返しになる可能性も高くなると言われているため、当院ではなるべく最初の介入は遅くしています。

4.むし歯を0にする(削る治療をする)よりも大事なこと

「むし歯は何本ありますか?すべて治療してほしい」
こういった質問やご要望があります。むし歯を0にすること自体は悪い考えではありませんが、0にすることを重視しすぎているように感じます。残念ながら、治療が終了したら歯科医院に通わないつもりでいる方も中にはいらっしゃいます。

重要なのは、治療した結果むし歯を0にすることではなく「むし歯が進行した原因を理解し、その原因を除去すること」です。
水を必死に拭いている様子
《蛇口から水があふれ、濡れている床を必死になって拭き取ろうとしている様子》
このイラストを見て、「蛇口の水を止めること」が床を拭くよりも最優先ですべきことであると誰もが思うでしょう。がしかし、歯科治療となると床を拭くこと(むし歯を治療すること)ばかりに目が行ってしまい、肝心の原因除去が見落としがちになりがちです。

(むし歯になる原因、ならない具体的な方法に関しては、実際にカウンセリングや口腔内を直接見て判断する必要があります。定期的に健診を受け、口の健康を保つことが重要です。多くの人に共通する事もありますので、また別のブログ等で記載したいと思います)

5.まとめ

最後に今回の話をまとめます。

  1. むし歯は、歯科医院や歯科医師ごとに「削る、削らない」の判断基準が違います。どちらの判断も間違いではありません。
  2. 削った歯を元に戻すことはできません。削る治療は不可逆的な処置であり、どんな精密な治療でも天然歯に勝るものはありません。
  3. むし歯を0にすることよりも大事なことは、むし歯の原因を理解・除去し、その状態を維持することです。
  4. むし歯の有無に関わらず、健診は重要です。健診なくして歯の健康を改善・維持していくことは困難です。

お読み頂きありがとうございました。

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